海外のデータで分かったBA.5!国内の治療薬はどうなる?#632

日本で猛威を振るう「BA.5」

7月中旬ごろから、国内の感染者数は過去最多を更新していますが、その原因となるのが「BA.5」です。

BA.5の元となるオミクロン株の変異について簡単にまとめると、まず去年の後半ごろにデルタ株から置き換わったのが当初のオミクロン株で、BA.1となるものです。

この時の拡大が「第6波」でデルタ株が絶滅となり、さらに第6波の途中、今年の初め頃にステルスオミクロンというオミクロンの変異、BA.2に置き換わります。

BA.2で感染がある程度収まっていましたが、今の第7波の初め頃、BA.2からBA.4、BA.5の2種類がほぼ同じタイミングで出て来て、爆発的な感染になった、という流れです。

見方を変えれば、BA.2からBA.4、BA.5に置き換わっているさなかにあり、さらにBA.5の方が感染力が強いため、BA.4からBA.5への置き換わりも同時に進んでいるのが現在、と言えます。

今回は進展があった国産治療薬のお話しも含めて、covid-19の最新情報について詳しくまとめて行きたいと思います。

感染力が強いものの、重症化リスクが極めて低い

BA.5の流行は海外の方が早く、集まっているデータ量はこれまでの変異株よりも多いのが特徴です。

まず少しおさらいすると、BA.5は体の免疫から逃げるような動きをするため、ワクチンが効きにくいどころか、一度かかった人でも再度感染する可能性が非常に強いという特徴があります。

ただし、以前感染したことがあって再度感染した方は、感染していない人と比べて重症化する可能性は77%低いとわかっています。

免疫から逃げるため感染のしやすさは高いものの、強毒ではないため重症化はしにくい、と言えます。

例えば、南アフリカのデータでは、デルタ株の重症化率は3%、BA.1は1.7%、BA.5は1.6%となっています。

ただ、これは一概にデルタ株よりもオミクロンの方が弱毒化しているとは言い切れず、デルタ株の流行時よりもワクチンの接種が進んでいる上に、以前感染したという人も多いため、デルタ株の流行時よりもある程度免疫ができているとも取れます。

それによって重症者数が減り、重症化率が自然と下がっているという可能性もあります。

そしてこれも見方を変えれば、一度感染したりワクチンを打っていれば、ある程度は免疫を持つことができる表れ、とも窺えるはずです。

世界的な、大規模なデータで見ても、ワクチンによって重症化率が下がっていることは明らかで、2回接種でBA.5による重症化率は41%下がり、3回接種で80%は下がることが分かっています。

日本でのこれからの状況

日本のこれからですが、このBA.5の拡大は依然として勢いが衰えておらず、検査体制や基準が変わらない限りは、感染者数はこれからも増えて行く可能性が高いと思います。

これまでの傾向からして、波が来てから1か月半程度は上り坂になることが多いため、お盆過ぎごろがピークと思われます。

ただお盆は人の移動も多いため、お盆過ぎは高止まりかさらに上昇して、それを経てから減っていくと想像できます。

一方の重症者数は現在18人で、第6波のピーク時は90人だったためかなり少ないと言えます。

しかし、感染者数が増えるということは重症者数も一定の割合で増えるため、7波のピークを迎えていない現状では、今後一気に増える可能性は充分あり得ます。

現状でもすでに発熱外来につながらないという地域も出始め、検査体制も厳しいため、医療のひっ迫はすでに起こり始めています。

例えば検査キットも、すでに当薬局のような小さいところだと、発注しても納品が難しくなっています。

治療薬のラゲブリオやパキロビットは、対象を限定していることもあり充分な量が確保されていますが、それでも需要が高まれば在庫は消費されていくため、ひっ迫する恐れはあります。

さらに、自宅療養の患者さんへお薬を運ぶために動く薬剤師やお医者さんの負担も、自然と増えていくことも予想できます。

国産治療薬の現状

最後に、塩野義製薬が開発を進めている「ゾコーバ」というお薬ですが、7月の専門部会でも効果が薄いとのことで承認を見送られました。

治験によると、体内でウイルス自体は減っているものの、減ったはものの症状が変わらなかった、という結果が出ました。

お薬によって体内にあるウイルス量は減ったものの、同時に熱が早く下がったとか喉の痛みや咳が引いて楽になった、ということがあれば「効果がある」と認められますが、ウイルスが減っても実際の症状は変わらなかったのです。

さらに、催奇形性という奇形の子供が生まれる可能性が認められたり、他のお薬との飲み合わせも難しいことから、緊急承認は不要と結論付けられました。

依然として開発は続けられているため、国産の治療薬が生まれる可能性は残っています。

やはり「3回目」のワクチン接種は望ましい

最後に、これからも引き続き、徹底した感染対策をしていくことが大切です。

今一度お伝えしたいのが、やはりワクチン接種についてです。

特に若年層の3回目の接種があまり進んでいないという現状があり、政府も接種の促進をしている最中です。

2回の接種でも重症化予防効果はありますが、3回目の接種では2倍ほどに上がることが分かっています。

1回目2回目の副反応の程度や、自分の重症化リスクの程度を考慮して決めるのも手ですが、可能であれば打つことを強くおすすめします。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属