2類から5類は変えた方がいいの?#633

2類から5類への議論が本格化

今回も前回に続いて、covid-19のお話です。

感染者数は増えているものの、重症者数の増加は緩やかという現状から、covid-19の5類引き下げへの議論が本格的にスタートしています。

2類・5類のお話しは以前、539回でも触れており、簡単に言うと「感染症法」という法律での区分のことを指します。

今回はこの2類・5類について、現状を踏まえてお話ししてみたいと思います。

2類の意味

現在covid-19が該当する「2類」とは、新型インフルエンザ等感染症の一つと分類されていて、具体的には入院勧告をする、という指示が出されています。

つまり、2類指定のウイルスへの感染が確認されたら、その方は入院を勧める、ということです。

しかしcovid-19の感染力が極めて強く、感染者数が非常に多いため、無症状であれば数日間の自宅待機、もしくは自治体が借り上げたホテルなどの宿泊施設に軽症者用の病棟を作って治療する、と言った対策をしているのが現状です。

2020年初頭のcovid-19拡大の最初期、症状が無くても念のため入院するという措置が取られていたと思いますが、それはこの法律によるためです。

いわゆる「原則」というもので、もっと詳しく言うと症状が出てから10日、熱が下がって症状が治まってから3日間隔離してから復帰が可能になり、無症状であっても7日間は自宅隔離をする、という風に定められています。

その他では、2類の感染症に感染した場合は医療費の自己負担が無いとか、緊急事態宣言が出せるのも1類、2類の感染症のみとなっています。

5類になると

5類になるということは、こうしたことが全て無くなることを意味します。

入院勧告はもちろんのこと、隔離の措置も無くなり、緊急事態宣言のような規制、発表も一切無くなります。

医療費も通常と同じく、費用の3割を自己負担でその場で払う必要が出てきます。

さらに、入院や療養については、今は医療機関や保健所や自治体で調整していますが、そういったものも無くなります。

5類にすることで医療の幅が生まれますが、現状では飲み薬のコストが非常に高いため、自己負担が発生することで受診控えが起こる可能性があります。

受診を控えることで自力で治そうとする人が増え、結果的に重症化してしまう患者さんも増え、結局医療がひっ迫するという事態も起こり得るのです。

ただ逆に考えれば、近年の医療費の負担はcovid-19によって類を見ないほど膨大になっている上に、保健所の負担も今は特に重いため、5類にすることでそういったものの負担が一気に和らぐのも事実です。

海外の現状

今の海外での規制についてですが、現在では感染者数が落ち着いているため、実は規制がされていないところの方が多いのです。

例えばイングランドでは、法的規制は完全に無くなっており、陽性となっても5日間自宅隔離や他社との接触を避けることが「推奨」となっており、ロックダウンのような強い規制はありません。

その他の国でも、もともとマスクに馴染みが無い文化なため、マスクを着用している人も一時期よりは激減していると見られます。

欧米諸国の最大のピークは、デルタ株からオミクロン株への置き換わりが起こった今年の1月下旬ごろのタイミングで、今ではその半分程度しか感染が確認されていません。

また感染者数と人口の割合も、イギリスでは人口が6700万人なのに対して累計の感染者数は2300万人、フランスでは人口6700万人中3300万人と、全人口のうち半分は一度感染したことがあるという計算になります。

アメリカでは3億3000万人中9000万人が感染しており、およそ3分の1弱が一度感染していることになります。

これは推測ですが、全人口の6割が抗体を持っている感染症は、集団免疫を獲得して徐々に収束してくるという風に言われているため、当初より感染が爆発していた欧州、アメリカはもしかしたら徐々に集団免疫を得られ始めている可能性があります。

一方の日本では、全人口1億2000万人のうち、累計感染者数は1100万人と、数で見ると全体の10%足らずの方しか感染していないことになります。

数々の感染対策が奏功している表れと同時に、集団免疫という面では、他国よりは得られていないのかもしれません。

covid-19を5類へ引き下げる?

上記を踏まえて、5類への引き下げについてですが、まず個人的には現状では、5類に変えても特に変わらないと思います。
現状、すでに発熱の症状が出ている軽症の患者さんは数多く居て、さらにこれからも増えていく可能性が高いと言えます。

5類になるということは無症状での検査が一切無くなるため、今行っている様々な手間が省けることになりますが、すでに症状が出ている患者さんは病院に行っているため、現場はすでに混雑しています。

現状で5類に変えたとしても、病院が混まなくなって医療のひっ迫が軽減されるかというと、患者さんがたくさんいる以上は考えにくい、ということです。

その上で、治療に自己負担が出て来るということは前述のように受診控えが起き、重症化する患者さんが一層増える可能性も出ます。

さらに5類にするということは、今は保健所の仕切りで確保している重症者用病床も一切無くなり、全て地域の各医療機関の裁量になり、保健所や自治体での働きができなくなるため、重症者が増えても何もできない事態に陥る可能性もあります。

政治的な話にはなりますが、もう少し柔軟に、2類と5類のいいとこどりのような、制度の見直しを図ってくれるのがベストだと思います。

例えば、区分は5類で重症者や医療の確保はしつつも、濃厚接触者に該当しても検査が陰性であればすぐに復帰できるようにするとか、「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる医療従事者などのような、社会に必要不可欠な仕事の適用範囲を広げるなども検討して良いと思います。

2類から5類へ完全に引き下げ、というのではなく、具体的な施策内容について見直していく、という風になっていくと良いかと思います。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属