2類から5類に引き下げると、医療は改善するの?#539

Voicy更新しましたっ!

 

今回は、ついに議題に上がってきた、covid-19の分類見直しに関するお話

 

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感染症治療を大きく左右する「感染症法」

新型コロナウイルス、covid-19が世界的に流行してから、およそ1年半ほどになります。

現在日本では、このcovid-19の分類の見直し、2類から5類へ引き下げの議論が進んでいます。

これは「感染症法」という法律に基づいたものになります。

 

1類から5類までの分類

感染症法の分類とは、重大なものと軽微なものの区切りのことです。

まず1類の感染症は、現在の日本には存在せず、治療法が確立していない感染症でなおかつ国民生活に極めて重大な影響を与えると考えられてる感染症病原体、と定義されています。

具体的に言えば、ペストやエボラ出血熱といったものが該当すると思います。これらや、これらを上回るようなレベルのウイルスや病原体が持ち込まれ、流行した場合は1類感染症となります。

2類感染症は1類ほどではないものの、国民生活や健康に重大な影響を与える感染症、と定義されています。

具体的には結核やジフテリア、そして普通のインフルエンザではない鳥インフルエンザが該当します。

そして分類の中で最も軽微なものとなる5類は、国民や医療関係者に情報提供が必要な感染症、という定義がされています。

これは現在、通常のインフルエンザウイルスや、エイズ、麻疹が対象になっています。

 

分類によって、政府の強制力が大きく変わる

この分類による最大の違いが、政府ができる対策です。

1類の感染症に感染したことが分かれば、すぐに専用の受け入れ病院に入院という措置になります。

当然、ウイルスや菌がついていると仮定できる物品に対して消毒措置がとられ、必要に応じて交通規制までもかけることができます。

2類では入院措置と物の消毒は行いますが、交通規制をかけることは基本的にはできません。

そして5類の感染症に感染した場合は、その地域でどれぐらいその感染症が発生しているかを調査する、ということだけです。これ以外のことは行いません。

 

covid-19は「指定感染症」

これを踏まえて、現在世界中で流行している新型コロナウイルス、covid-19についてですが、現在のcovid-19は「指定感染症」となっており、感染症法の分類では、1類でも2類でも5類でもありません。

ややこしいですが、これは単純に「まだいずれにも分類されていない感染症」ということです。

指定感染症は病気の重症度合いによって、1類、2類、3類に決定されます。

この指定感染症の分類で2類相当となっているのが、covid-19なのです。

 

最も軽微な「5類相当」に引き下げるメリット

さて、今回のタイトルにもある、現状のcovid-19を最も軽微な3類相当に引き下げ、感染症法で5類に引き下げるという「見直し」についてですが、当然ながらメリットもデメリットもあります。

まずメリットは、保健所の負担は現在よりも大幅に減ることと、医療資源のひっ迫が改善する可能性があります。

現在保健所は、追跡調査の業務が非常に負担になっています。感染者の濃厚接触者の把握、連絡、さらに自宅療養中の方の体調管理も保健所が行います。

医療のひっ迫が改善する「可能性」ですが、まず現在のcovid-19治療は感染症対応が可能な病院のみで行っています。

一般的な個人のクリニック、診療所で受け入れているところはほぼありませんが、5類の感染症には制限がほとんどありませんので、全国のほとんどの病院で受け入れ、治療ができます。

現在の受け入れ病院は重症者の治療に特化して、軽症中等症の方はそのほかの病院で、という風に使い分けができる上に、中等症の方がかかれる医療機関が増えるということは、前回の配信で触れた抗体カクテル療法も極めてスムーズに使えるようになる可能性があります。

さらに、5類には当然ながら緊急事態宣言という施策がありませんので、経済活動も今よりは大幅に回すことができます。

 

最も軽微な「5類相当」に引き下げるデメリット

感染が今よりも広がる恐れ」があります。

特に、感染症への対策への対応が不十分な病院で感染が広がってしまうと、その病院に入院されている患者さんに感染するリスクが極めて高まります。

covid-19は以前より既往歴のある方や持病のある方といった、体が弱っている方に対しては重症化するリスクが高いため、たとえ病院内であっても処置が間に合わずに死亡するリスクが高くなります。

そして当然、5類相当にして受け入れ病院が増えたとしても、その分感染が今よりも大きく増えたとしたら、結果的に医療資源は圧迫されることになります。

さらに、5類相当になるということは、治療が保険適用になって3割の自己負担が発生します。

現在のcovid-19治療には自己負担金は一切発生していませんが、5類相当になるということは7割が保険適用、3割を自腹で負担しなければなりません。

 

将来的には5類相当へ

covid-19はすでにワクチンもあり、治療薬も世界的に進んでおりますので、将来的には感染が落ち着き、5類相当へ引き下げられることは予想できます。

ただし今現在、現段階で引き下げるのが妥当かどうかは、正直判断材料が非常に少ないと思います。

例えば軽症者への治療法も、一切無いというわけではありません。

抗体カクテル療法があり、実用化されはじめてはいますが、それがどれだけ広く活用できるかはまだ不透明です。

治療法はあるものの、それが感染拡大に対して有効なだけの数があるかどうか、スムーズに使用ができるかどうかの見通しは立っていないのです。

インフルエンザが2類ではなく5類なのは、タミフルのような専用の特効薬が安価に、手軽に処方ができるためです。

もしこれと同程度の体制がとれれば、covid-19も5類相当になれるはずですが、現状では全くそうはなっていません。

政府の発表では、抗体カクテル療法のお薬は十分確保している、とのことですが、本当に確保していて流通しているのであれば、もう現状で問題なく可能なはずです。

流れとしては、PCR検査して陽性となり抗体カクテル療法の適用となったら、まず病院で点滴をします。

そして、およそ30分から1時間ほど、院内で点滴を受ければ完了、という流れで軽症の方の治療ができますが、現状ではこんな体制にはなっていません。

またもちろん、ワクチンの流通量、接種率も着実に上げていく必要があると思います。

どちらも充分にいきわたり、活用できる体制が整えば、インフルエンザと同レベルになり、5類相当になっても差し支えありません。

ただ現状では、抗体カクテル療法がどれだけ確保できているかわからず、おそらくそれほど数もないはずです。

抗体カクテル療法に使うお薬の製造には多大な時間とコストがかかり、現在は毎日2万人規模で感染者数が出ています。

その中から症状が出ている方、軽症の方に使うとしても、多大な量のお薬が必要になりますが、それを確保できているかというと、正直難しいと思います。

その上、前回の配信でも触れましたが、抗体カクテル療法はコストが極めて高く、仮に5類相当になったとして自己負担3割が発生するとした場合は、このコストから考えると1回数万円は個人で支払う必要が出ると思われます。

そうなったとき、治療をためらう人が出てくる恐れもあります。

ワクチン接種が今よりもしっかりと進んで、感染者数が落ち着き、患者さんの数が大幅に減るまでは、今の2類相当のままだと、個人的には想像できます。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属