OTC保険外しについて生配信#900

医療健康ナビ「なくすりーな」が配信900回を達成

先日、6月14日の配信を持って、voicyにて配信している医療・健康ナビ「なくすりーな」が、配信回数900回を数えました。

今後も引き続き、健康についての些細なことから医療、お薬に関する情報、ニュースについてまで、様々なことを取り上げ、お話して参りますので、是非ご覧いただければと思います。

900回目となる今回取り上げるのは、最近の国民健康保険、そしてお薬の価格についてとても話題になった、OTC類似薬保険外し、という問題についてです。

OTCとは、非常に平たく言ってしまうと、市販薬のことを指します。

そしてOTC類似薬とは、中身は市販薬とほぼ同じでも、分類としては医療用医薬品になり、病院で処方されるお薬のことを指します。

従来、成分も効果も市販薬とほぼ同じでありながら、医療用医薬品としてお医者さんから処方され、保険が適用されるというお薬がいくつかありました。

しかし今後は、そうしたものは保険から外して、保険適用外のお薬にする、という風に制度を変更する案が浮上しました。

今回はこのニュースについて、薬剤師目線で取り上げてみたいと思います。

薬不足の現在とお薬の価格が跳ね上がるという懸念

まず、今回のニュースのきっかけとなったのは6月4日に公開された女性自身という週刊誌の記事で、医師が警鐘、という見出しです。

ロキソニンテープ1枚2000円、リンデロン軟膏2万円になる、という目を引くタイトルで、記事の最初のほうでは、OTC類似薬が保険適応外になると、処方箋は発行されなくなり、市販薬を薬局で買ってくださいと言われかねない時代になる、とあります。

このような時代になる可能性は、確かに充分あり得ると思います。

これまでも度々触れてきたように、日本の医療費の問題、医薬品の価格の問題は現在も続いており、また医薬品の在庫が無いのも、珍しいことではありません。

例えば、実際に自分が直面している問題では、ある心臓のお薬を毎月必要としている患者さんがいますが、毎月は今の自分の薬局には入って来ません。患者さんに必要だから仕入れたいと言っても、当薬局の規模が小さく、流通制限がかかっているためです。

そして、その流通制限がかかっている理由は、製薬会社がそのお薬の利益が薄いことを理由に、量産をしないためです。

医療用医薬品の値段は、発売から時間が経つにしたがって改定され、下がって行くため、利幅が取れないお薬が極めて増えています。

現在では赤字でありながら、需要があるとして販売されているお薬もあります。

具体的な薬価で言うと、1錠5円90銭のお薬が現在の最安値で存在しており、他にもおよそ1錠10円以下のお薬は様々あります。

従来は安価なお薬があったとしても、他のお薬で利益が出ることが多く、需要と供給のバランスと企業の利益のバランスが取れているところも多かったですが、コロナ禍で起きた件をきっかけに、製薬会社のコストダウンのからくりが明らかになり、製薬会社の運営が一気に厳しくなったのです。

以前の472回の配信にて詳細を取り上げましたが、コンプライアンスを適切に守っていなかった製薬会社に責任はありますが、コンプライアンスを守れるほどの利益は確保できるように、政府がケアしていたのかという点はあると言えます。

お薬の値段は政府が決めており、平たく言えば製薬会社が自由に決められるものではありません。

製薬会社は営利企業ですので、採算が取れないお薬の生産は必然的に縮小され、終売となることもあります。

前述のように、一つのお薬では赤字でも他のお薬で利益が出ており、それで運営していたものの、現在ではそうした赤字のお薬の製造がどんどん厳しくなり、結果として在庫が枯渇してきているのです。

そこでOTC類似薬を保険適用外にして、少しでも医療費を削減して、同時に製薬会社に入る利益も確保しようとするのが今回の概要となります。

これは患者さんはもとより、薬局薬剤師、そして後述するお医者さんの不利益につながることは確かです。

しかし一方で、これまでも度々言っていたように、市販されている薬で対処するという考えは正しいと思います。

自分自身が子供だったころの薬局という存在は、まずは薬局に行って相談をして、そこで薬をもらって帰り、家で休むというのが定番でしたが、医薬分業となったのを機に、病院で処方箋を出してもらい、それで薬局に行くという風に変化しました。

つまり、薬局は病院で出る薬をもらいに行くだけのところ、という風に認識が変わったように思えるのです。

今後は医療費の削減という問題から、市販薬の利用を推奨して病院にかかる回数を減らそうとする動きの一つでもありますが、それは言い換えればお医者さんの利益が減ることに直結します。

OTC類似薬が保険適用外になると病院に行く回数が減る?

今回の記事は、医師が警鐘、という見出しで、内容もお医者さんによる解説ですが、これははっきり言えばポジショントークで、お医者さんの立場からすると至極当然の問題です。

特に皮膚科では顕著で、前項でも書いたように記事内にはロキソニンテープ1枚2000円になる、とありますが、これは完全なミスリードと断言できます。

記事内にある表ではロキソニンテープ100ミリグラム7枚で36円とありますが、こちらで薬価を調べると1枚17円60銭ほど、7枚分にすると123円で、患者さん負担の3割にすると36円にはなりますが、実際に患者さんが7枚を36円で入手することは出来ません。

記事内には調剤料についても記述もありますが、薬局で購入する場合は500円か600円程度で、病院で何の検査もせずにロキソニンテープ7枚を処方されるとしたら、最低でも1500円ぐらいは現状でも必要になり、診察料などを考慮すると、約2000円という金額は実は現状でもさほど変わりません。

ですが、記事は36円が2000円になるかのように書かれているのです。

また、もう一つ出てきたリンデロンVというステロイドの軟膏ですが、これが100グラムで2万円になると記載されています。

これも確かにこちらで計算すると、100グラムも購入しようとすると2万円になるのはあり得ますが、実際に100グラム使う事態があるのかは非常に疑問です。

リンデロンVは強さで言うと5段階のうちの真ん中で、100グラムも必要になるような場合はもう一つ上のもののほうが良く、そしてそのお薬は処方される医療用で、保険が適用されます。

つまりリンデロンVが100グラムも必要になるケースはほとんどなく、またそうした患者さんがいたとしても、そこから市販薬に切り替える事態もまず起こり得ません。

お薬の値段が著しく高くなることを言いたいがために、恣意的に取り上げていると思います。

また記事内ではもう一つ、飲み合わせに注意が必要な薬しか処方できなくなる、という記述があります。

簡単に言うと、何種類も薬を服用していて、飲み合わせに注意が必要な患者さんがいて、保険適用外になるお薬の中には安全性の高い薬が含まれている、というような記載です。

ですが、現在でも病院でしか出していない、出せないようなアレルギーのお薬で、飲み合わせについても高い安全性のあるお薬は存在します。

具体的に言うと、アレジオンやタリオンは安全性の高い薬でありながらも確かに除外されますが、それらが必要な方の場合はビラノアやアルパフィンなどで代用できます。

こうしたことも記事内では説明されていません。

記事内には他にも、水虫のお薬の例などもありますが、結局はお医者さんのポジショントークであり、週刊誌の誇張が強い記事になっています。

市販薬をどこで購入するか

かなり長くなりましたが、以上が900回目配信で取り上げた、OTC類似薬についてのお話です。

実はこうしたお話は、およそ2年に1回出るもので、風物詩とも言えるようなものです。

週刊誌や各メディアでも、薬局や病院や医師を非難したり、また政府批判や政治問題も含めた記事が出て、様々な問題提起がされますが、今回のOTC類似薬保険外しは、やはりかなり大きい制度変化になると思います。

今後、正式に制度が変更された場合は、どこで買うのかが大切になってくると思います。

何を選べば良いのか分からないときは、薬局薬剤師や、ドラッグストアの登録販売者の方など、お薬の知識がある人に聞くのがベストですが、ドラッグストアでは推販(すいはん)商品と言い、自社製品など利益の高い商品を売る動きもあります。

また薬局薬剤師であっても人間ですので、100%自分の症状に合う薬を必ず出せるかというと、そうとも言い切れません。

見分けるのは難しいですが、ポイントは自身の症状をどれだけきちんと見てくれるかを意識してみてください。

風邪の症状でも、咳が出て熱があると説明すると、簡単にお薬を出すだけという方もいますが、そこから一歩踏み込んで、患者さんに対して平熱の温度など、詳しく話を聞いてからお薬を出してくる方もいます。

塗り薬の場合でも、塗り薬の置き場所を紹介するだけではなく、手指の患部を実際に見たり、症状を詳しく聞いてから出すということもあると思います。

懇切丁寧な対応、というと稀かもしれませんが、患者さんの症状としっかりと関わってくれる方は、とても信頼が出来るかと思います。

薬局薬剤師からお医者さんへつなぐという仕組み

最後に、個人的な考えですが、薬剤師からお医者さんへの紹介状という仕組みがあっても良いのではと思っています。

こう言う患者さんがいるけど、市販薬では対処できないと思った、ということで、症状などを簡単にまとめて紹介状を作成してお医者さんへとつなぐと、とてもスムーズになり、効率が良くなると思います。

市販薬で対処できる部分は市販薬で、それ以上の部分はお医者さんへ、ということは何度かお伝えしていますが、それがきちんとシステム化されると、より良くなるはずです。

このOTC類似薬の保険適用外の変化から、また薬局の活用が一つ進んで行っていただけると、良いかと思います。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

相談されたい薬剤師
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属