他人事ではない薬害。被害に遭ったときどうする?#472

Voicy更新しましたっ!

今回は、つい先日起きたお薬に関する重大なニュースについてのお話

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「薬害」の事件が発生

今回はcovid-19についてではなく、つい先日ニュースになった、「薬害」についてのお話です。

非常に重大で、まさに前代未聞とも言えるこのことについて、深く掘り下げてお伝えしていきます。

 

間違ったお薬が混入してしまった

このニュースをざっくり言うと、製造過程で本来のとは違うお薬が混入してしまい、本来のとは別の効果が出てしまったという内容です。

イトラコナゾール50ミリと言うお薬で、小林化工という製薬会社が発売しているお薬です。

商品名で「MEEK(ミーク)」と呼ばれており、主に水虫の治療に対して使われています。

このお薬に、製造過程の中で全く別の睡眠導入剤が混入してしまい、流通したと言う流れです。

混入したお薬はリルマザホン塩酸塩というもので、これがイトラコナゾール50ミリ1錠あたりに5mg混入しました。

リルマザホン塩酸塩は使う場合は最大でも2mgに収めるお薬ですが、1錠飲むだけで2.5倍もの量を摂取することになります。

さらにイトラコナゾール50ミリは1回で4錠飲む必要があるため、最大容量の10倍を一気に摂取してしまう事になります。

実際に起きた健康被害は63件で、緊急搬送が4件、入院して治療中となっているのが6件確認されています。

さらに、睡眠導入剤の影響で交通事故も8件確認されています。

そして現在、クラス1の回収ということになりました。

クラス1とは健康被害が起こる可能性があるため速やかに回収を、という意味で、例えば患者さん処方していた場合には薬局の薬剤師やメーカーの方が患者さんに連絡をして回収しに行くレベルになります。

 

リルマザホン塩酸塩が混入したのは「イトラコナゾール50mg」

ただし、今回睡眠導入剤が混入され、クラス1の回収措置がされたのは「イトラコナゾール50mg」というお薬になります。

イトラコナゾールには100mg、200mgのものもあり、それらにはリルマザホン塩酸塩は混入していないとされていますが、念のために自主回収がされています。

またややこしいですが、MEEKではないイトラコナゾールや、イトラコナゾールではないMEEKもあり、それらに関しては問題ありません。

もし似たようなお薬を服用中で、不安なことがあれば是非遠慮せずに薬局まで連絡してみてください。

 

前代未聞の薬害事件

以上が今回のニュース、事件となりますが、実はこれは日本のお薬の歴史上でも前代未聞のことで、こうしたことは正直、自分でも全く聞いたことがありません。

薬害事件と言えば、有名なサリドマイドの場合は副作用に関してあまりわかっていない状態で広く使ってしまい、妊婦さんに重大な被害が出たというものでした。

今回のことは、製薬会社の方で、医薬品を作る製造過程で起きたことです。

一番最初に書いたように、製造過程で本来のとは違うお薬が混入してしまった。ということで、通常は必ずダブルチェックがされています。

これは薬局でも同様で、お渡しする袋に入れる前に、必ず二人の目でチェックをして、それから患者さんに渡すようにしています。

最近ではそれに加えてバーコード管理もされるなど、必ず二重以上にチェックをしています。

しかし、今回の小林化工さんの製薬の過程で、ダブルチェックをしなければいけないところを一人で作業してしまったため、このような事態が起きたと発表しています。

 

2007年の事件

完全に間違ったお薬が入った状態で流通したのは今回がおそらく史上初ですが、実は2007年にも、違うお薬が混入した事件がありました。

コニールという血圧のお薬があり、それが最後の包装の過程、お薬が個別に入るシート(ヒート)というものに入れる過程で、そのシート内の何錠かだけが、アレロックというアレルギーのお薬に変わってしまった、という事件です。

この二つは見た目が全く違うお薬だったため、薬局で薬剤師が違うことに気づき、メーカーにすぐに報告して患者さんに被害が出る前に防げました。

今回は包装よりもかなり前の、製薬の過程で別の成分が混入して起こったことで、外から見ただけでは通常のイトラコナゾール50ミリですので、気付くことが出来なかったという事です。

 

もし被害に遭ってしまったら・被害を抑えるために

出来上がった錠剤を割ってまで、成分を確認することはないため、今回のように製薬の過程で違う成分が入ってしまうと、気付くことはほぼ出来ません。

つまり、実際に飲んでみて、何かが起こるまで、違いに気付くことは不可能という事です。

ですので、もし何かおかしいと感じた時、普段ではないような体調変化があった時には、すぐに薬剤師まで連絡してください。

薬局でお渡しする直前に説明するのは、一般的にそのお薬でよくある副作用についてですので、もし万が一それ以外で何かあればすぐに連絡してみてください。

これは今回の例でも、患者さんの一人がイトラコナゾール50ミリを飲んだら明らかに強い眠気が出た、という事を薬局に問い合わせて、その薬局から製薬会社さんと厚労省に副作用報告をしたところ、この事故が発覚したという経緯があります。

繰り返しになりますが、もし飲んでから調子が悪い、何かがおかしいと思ったらすぐ薬局に連絡してください。

また、今回の例では実際に過量の睡眠導入剤を摂取してしまって、入院で治療することになるなど、多大な被害が出ましたが、そう言った健康被害が起きた場合には副作用救済機構というところがあります。

お薬は確実に100%、何も起こらないという事は無く、100%安全とは言い切れないため、万が一に備えて、各製薬会社が集ってこの制度が作られています。

この保障を受けるのにも、薬局や病院で相談をしてからのことになるため、やはりまずは薬局やお医者さんと言ったところに連絡してください。

 

薬局でのアンケートが重要

最後に、今回のようなクラス1の回収の際には、薬剤師や製薬メーカーの方が直接、患者さんのもとに伺って全部回収するという作業をします。

この時、必ず薬局や病院から連絡が行きますが、特に薬局の場合では処方の前にアンケートをすると思います。

これには飲んだ薬や経験した副作用についての事はもちろんですが、住所や電話番号を書く欄もあります。

この欄に連絡先があると、病院を通さずに薬剤師が患者さんにいち早く連絡出来ます。

大げさかもしれませんが、自宅に帰って今まさに飲もうとした瞬間に、薬剤師から電話が来る、という事もあり得ます。

そして出来れば、病院のようにかかりつけの薬局と言うのがあると、より気軽に、お薬のことについて相談できるので、是非とも普段から利用していただければ安心かと思います。

 

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属