漢方薬も品不足?病院の漢方と市販の漢方はちがうの?#667

医薬品の漢方が入ってこない

先日、知り合いのお医者さんとの話の中で、ある漢方薬がどうしようもないほど入ってこなくて困っているという話題になりました。

コロナの影響や、中国の厳しいゼロコロナ政策により、漢方の原料となる生薬が入ってこなくなり、製造がほぼ全てストップしているものもあります。

そのお医者さんは、仕方ないから市販の漢方薬を患者さんに処方してみようかな、ということになり、実際に処方してみたところ患者さんから「あまり効いた感じがしない」と言われたようです。

市販の漢方薬と、処方する医薬品の漢方薬は違いがあります。

今回はこのお話から、漢方薬の現状について少しまとめていきたいと思います。

小柴胡湯加桔梗石膏の原料が全般的に不足している

特に品薄になっている漢方薬が、「小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)」です。

喉の痛みや炎症に効果的なお薬で、オミクロン株による症状に対して、処方されることがかなり多い漢方薬になってます。

現在、この製造に必要な生薬が全体的に不足しています。

小柴胡湯加桔梗石膏に含まれる、「柴胡(さいこ)」という生薬があり、これは昔から数が少なく、コストも高い生薬の一つでしたが、小柴胡湯加桔梗石膏には欠かせないため、covid-19によって大量に消費されました。

原料の一つが少なくなるということは、その原料を使う漢方薬が全体的に品薄になることになります。

しかし、市販のはまだそれほど品薄にはなっていないという現状があり、前述のようなことが起きました。

これはある意味、説明を失念していた自分のミスとも言える事態ですが、実は市販の漢方薬と医療用の漢方薬では、含有量が少ないことがあります。

市販薬の漢方と、医療用医薬品の漢方薬の違い

西洋薬ではしばしば、市販のと医療用のとで全く同じ成分、効果を持つお薬がありますが、これは漢方薬においては、同じ成分と効果を持つ漢方薬でも、効き方が変わることがあります。

これは、含まれている成分の量が少ないことがあるためです。

例えば、ドラッグストアなどではツムラというメーカーさんの漢方薬が様々あると思いますが、例えば葛根湯ha

医療用のとツムラの市販のものでは、含有量が医療用の3分の2ほどと減っています。

葛根湯はまだ多い方で、他の漢方薬はもっと少なく、医療用の5割ほどしか入っていません。

なぜこのようなことが起こるかというと、副作用のリスクを大幅に抑えるためです。

漢方薬は以前から、症状に合わせたものを使うように、とお伝えしていますが、市販のを買うということは最終的には自己判断で選ぶため、万一間違ったものを選んだとしても、それほど副作用が出ないように、悪い影響が出ないように調節する必要があります。

量が少なくても成分は同じで配合の仕方も変わらないため、効果はある程度得られますが、医療用のと比べると弱いということになります。

結果として、普段から医療用のを飲んでいる患者さんが、市販薬に切り替えたら、効果が薄くなったと実感しやすいということです。

漢方薬局で対策ができる

医療用の漢方薬が深刻な品薄状態にあるためこうした事態が起きましたが、対策はまだあります。

漢方を主に取り扱う漢方薬局というところで、在庫として置いてある生薬をその場で、患者さんの症状や体調、体質に合わせて微調整して配合した漢方を処方するというものです。

通常、市販のも医療用のも、固定された通りの調合で販売、流通していますが、漢方薬局では患者さんに合わせて少しずつ調整ができるため、ピンポイントで効く漢方を作る、ということが可能なのです。

ただし、使うのは生薬そのものを直接使うため、コストが非常に高く、さらに保険も適用されないため、費用はかなり掛かることになります。

そしてもう一つ、こうした調合を普通の薬局でできる、薬局製剤というものもあります。

漢方薬局ではない、普通の薬局ですので、コストは漢方薬局よりも少し安価ですが、違うのは生薬一つ一つの量を加減するような調整ができないということです。

イメージとしてざっくり言うと、ツムラさんなどの市販のメーカーさんが出しているような漢方薬を薬局が作る、というような形です。

国によって決められた配合と分量があり、その通りに製造販売する分においては問題ないと認められています。

ただこれができる薬局はあまり多くないため、欲しい場合はいくつか薬局を調べる必要があるかと思います。

ちなみに医療用漢方薬も、零売で普通の薬局で販売されていることもありますが、前述のように小柴胡湯加桔梗石膏はもうかなり深刻な品薄状態ですので、入手するのは難しいかもしれません。

市販にしかない漢方薬がある

最後に、漢方薬の中には、処方されずに市販でしか入手できない上に、副作用等を考慮せずに古来の文献と全く同量を用いて製造されているものもあります。

例えば、喉の痛みに効果がある「銀翹散(ぎんぎょうさん)」や、喉の痛みで声が枯れた時などに便利な「響声破笛丸(きょうせいはてきがん)」がそうした漢方薬で、これらはパッケージに「満量処方」と記載されており、いわばフルの量で配合されているお薬になります。

これは副作用が起きないというわけではなく、合わなければ副作用が起きる可能性はありますので、十分注意してください。

また、「駆風解毒湯(くふうげどくとう)トローチ」という、医療用では存在しない、トローチタイプの漢方薬もあります。

喉に効くお薬で、普通の漢方薬は粉や錠剤で飲むことが多いですが、駆風解毒湯はトローチでしか販売されていない漢方で、味は漢方薬ですが普通に舐めているだけで効くので意外と便利です。

さらに、最近は小林製薬さんで多いですが、凝ったネーミングにしている漢方薬もあり、主に咳に効く「清肺湯(せいはいとう)」を「ダスモック」という名前にしたり、睡眠に効果がある「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」を「ナイトミン」という名前で販売したりと、わかりやすく親しみやすい名前で販売していることもあります。

医療用に比べると、効果は薄いことが多いですが、市販のものだと様々なものが気軽に試せるので、興味があれば是非調べてみてください。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属