症状がなくても急に死亡?無症状でも気をつけること#474

Voicy更新しましたっ!

今回はつい先日、covid-19で亡くなったある方の例のお話

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軽症で療養中の方が亡くなるケースが

今回はcovid-19の「無症状」や「軽症」に関するお話です。

つい先日、軽い発熱が起きてPCR検査が陽性となり、指定の宿泊施設で療養中の方が、施設内で突然亡くなったというケースが発生しました。

年齢は50代、特に基礎疾患が無い方でしたが、半日で容体が急変してそのまま施設内のお部屋で亡くなってしまったのです。

 

死亡した経緯

このことの詳しい経緯ですが、先日12月8日にPCR検査で陽性になった方で、翌9日に指定の宿泊療養施設に入所され、回復まで安静にするという措置がとられていました。

入所時、体温は37度8分で、SpO2が1回目の測定で89%で、時間を置いて再度測ったところ98%と出て、そのまま経過観察と言う措置になりました。

この時、看護師さんは「何かあったらすぐ119番に」とも伝えています。

SpO2とは、酸素飽和度を表す数値で、血液にある赤血球が、どれほどの酸素を運んでいるかを示す数値です。

通常、健康に日常生活を送っている方はおよそ98%以上で、95%以上であれば正常となります。逆に93%を下回ると受診が必要となります。

そして通常であれば、SpO2が90%前半台、80%台だとかなり息苦しくなって辛くなります。

入所から2日後の11日の朝8時、定期検診を兼ねてLINEで看護師さんとやり取りをした時、体温は37度8分と変わらないものの、頭痛とだるさは変わらずで、SpO2の数字が86%と出ているのに咳と息苦しさは特に無い、との返信がありました。

86%だと相当息苦しいはずなため、内線で施設内の電話機にかけたり、本人の携帯にかけたりしたものの、なかなか出ないとか、応答はあったもののすぐ切られたりという事が続き、11日の16時に切られたのが最後となりました。

17時30分に電話した際には応答が完全に無く、そこからは何度かけても呼び出し音が鳴るだけで、20時ごろ看護師さんがお部屋に入ったところ、心肺停止の状態で見つかり、その後病院で死亡が確認された、と言う経緯です。

 

急激に「重症化」した

以上が今回の例です。

SpO2の数字が特徴的ですが、covid-19では以前から、無症状でも急に肺炎が起きて酸素飽和度が急激に低下する、ということが分かっています。

通常の肺炎だと胸の不快感や息苦しさが必ず感じられて、例えば呼吸時に胸が痛む、と言う症状が出ます。

この時、SpO2の数字は徐々に下がっている最中で、自覚症状として息苦しさが徐々に増していきます。

これが先述の、「通常であれば、SpO2が90%前半台、80%台だとかなり息苦しくなって辛くなる」という状態です。

この時に医療機関にかかれれば、気管挿管をすることで、肺炎の進行を抑えて、回復を助けることができます。

しかしcovid-19は、レントゲンで肺を見ると明らかに肺炎の状態になっていてSpO2の数字も大きく下がっているのに、息苦しさを感じない、という事があります。

これは生理現象的に言うと、普段よりも明らかに呼吸が早く、深くなっているのに、自覚がほぼ無いという状態です。

そして、肺炎がある状態で早く深い呼吸をするのは、肺炎を一気に加速させる大きな原因になり、肺胞が凄まじい勢いで壊れて行くことになります。

通常の肺炎であれば非常に息苦しいため、そもそも早く深い呼吸は出来ず、速やかに気管挿管をして肺を守るという措置ができます。

しかし、covid-19では息苦しさの症状が無い状態でも肺炎が進み、肺が壊れて行く危険があるため、たと症状が無くてもSpO2の数値が通常より低い状態であれば、気管挿管をして肺を守るようにしなければならないのです。

今回のこの事例が起きた神奈川県では、先週12日に発表した当該事例の第二報の中で、「SpO2について、(数値が)低い状態が検知されていたにも係らず、経過観察とした。」と言った旨の検証報告をしています。

 

このことを繰り返さないために

また、今回のこの例は、電話をしたものの向こうから切られる、という事が何度かありました。

施設側は「電話を切られるという事は一応は意識がある」という風に把握してしまったのも、問題の一つとして捉えています。

今後はSpO2が93%以下、もしくは元々の数値から2%以上下がった時は、もう一度再検査をしてもらい、再度同じような数字が出たら連絡の応答を問わず、医師が直接体調確認に伺う、という方針になりました。

そしてもう一点、この例だと連絡が完全に途切れてから、4時間後に部屋に入り、心肺停止状態の本人を確認した、という状況でした。

電話が向こうから切られたのは16時が最後で、それ以降は呼び出し音が鳴るだけだったのは把握していたものの、直接確認に行ったのは20時だったという事です。

今後は朝夕の健康観察以外に、朝昼晩のお弁当を渡す食事のタイミングでも、安否確認の時間にして、より深く様子を見て行く、としています。

 

SpO2の意味を知ってもらう

そもそも原点に戻ると、行政側はSpO2の数字の意味をきちんと患者さんに伝えていたのか、そして患者さん側はSpO2の意味をきちんと把握していたのか、という問題があります。

今回の例だと、患者さん側は電話が来ても特に応答せずにすぐに切っていた、という事があります。

これは仮定のお話になりますが、看護師さんの方はSpO2が低くてしっかりと安否確認をしたかったものの、患者さん本人には特に自覚が無く、発熱やだるさがある中で居るため、電話がかかって来てもまともに返事をしたくなかった、面倒に思っていた可能性があります。

もし、事前に「SpO2の数字が90%をきると、息苦しさを感じる前に急速に肺炎の症状が進んでしまう」と言ったことを知っていたら、数値がおかしいことを連絡してくれたという可能性も考えられます。

これはあくまでも仮定で、実際に本人がどうなっていたかは分かりません。

covid-19は何人かに一人は無症状の状態から急激に肺炎が進行するウイルスですので、「無症状であっても肺炎になり、重大な事態まで進行する可能性がある」ことをしっかりと知ってもらうのも、大切だと思いました。

 

 

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属