なんで調剤ミスが起きてしまったの?#831

調剤ミスによる死亡事故が発生

つい先日、薬局から処方されたお薬によって、命を落とすという事故が発生したというニュースが入りました。

大変痛ましい事故であり、薬局で働く薬剤師としても、今一度気を付けて行きたいと思いました。

今回はこのニュースについてのお話ですが、このニュースはこれまでの調剤ミスとは少し経路が違うという特徴がありましたので、過去の事例も含め、調剤ミスについてまとめて行きたいと思います。

取り違えと分包のミス

以前起こったのが、セルテクトというお薬をセレネースというお薬を取り違えたという事件です。

セルテクトというアレルギー用のお薬に、セレネースという強い劇薬が入ってしまい、アレルギー用のお薬を必要としていたお子さんの数人が命を落としたという事件です。

これは両方とも粉のお薬ですので、一旦包装から取り出し、患者さんに合わせて小分けにするという作業をします。

その際、セレネースが取り違えられて入ってしまい、そのまま処方されてしまったということです。

また、マグミットという便秘用の錠剤を、朝昼晩用に小分けにする自動分包機に入れた際、何らかの原因でマグミットではなくウブレチドという強力なお薬が入ってしまい、処方された方が亡くなったということがありました。

大手の薬局で起こった調剤ミス

そして先日起こったのが、大手のスギ薬局さんで起こった事故です。

2021年の10月、ある病院で処方された処方箋を、スギ薬局に持っていて調剤してもらい、飲んでいたという患者さんが、11月に意識を失い、入院したというのがきっかけです。

残っているお薬を調べてみると、持病のものではない、必要のないお薬が二種類入っており、それを飲み続けてしまったということが分かりました。

その後、低血糖脳症という病が分かり、翌年2022年の5月に亡くなったということです。

現在、遺族の方から当該の薬剤師3名に対して損害賠償を求め、裁判係争中となっています。

報道では、不要な糖尿病のお薬が出たのは全体の一週間分程度で、意識を失って倒れたのはそのお薬を飲み切ってから4週間後とされています。

そして、その糖尿病のお薬が必要だったのは、被害者の前の患者さんで、その方ように分包した際に起きた、というのも明らかになっています。

このことを自分なりに推測してみると、おそらく前の患者さんでは21日分のお薬を分包していた可能性があると思います。

お薬は14の倍数が出ることが多く、14日分、28日分、42日分で、21日分や35日分で出ることは少しレアなパターンになります。

そしてお薬を分包する際は、たこ焼き器のようにマス目に分かれた専用の機械を使いますが、そこに最初に28日分、糖尿病の2種類のお薬を入れたとします。

機械には手作業でマス目にお薬を入れますが、その際に28日分を入れてしまったとします。

機械は、当該の患者さんは21日分のお薬と認識しているため、21日分を包装して排出します。

すると、22日から28日分のマス目に、お薬が入ったままになります。

この際、薬剤師が気付かずに、次の患者さん用にお薬を手で入れ、分包していくと、残っていたお薬と一緒になって出てくることになります。

そうしたことで、1週間分だけ、間違ったお薬が入ってしまったということです。

つまり、厳密には単なる取り違えというものではなく、前の患者さん用の調剤のミスによって、後の患者さんに被害が出てしまったということと考えられます。

分包したものをしっかりと見る

自分の場合もそうですが、やはり薬を渡す直前の確認は、極めて重要になります。

今回のケースだと、1回で2錠のお薬が増えていたため、3錠だったところが5錠になっている、という状況で、写真でも明らかになっていました。

これは薬剤師であれば、一瞬でも確認したら分かるため、その作業を怠ってしまった可能性が高いと思います。

前項のセレネース、セルテクトはどちらも白い粉で、一瞬でも間違えてしまうと見分けがつかなくなるため、細心の注意を払う必要があり、ウブレチドは錠剤ですのでよく目を凝らして見ると文字が入っているため分かりますが、見落としてしまう可能性は少なくないと思います。

しかし今回の、3錠と5錠の違いを見落とすことは、どれだけ忙しくてもまず見落とさないはずです。

人為的なミスが起こる背景には、その環境が持つ何らかの原因があるかもしれない、と個人的に思いました。

もちろん、その本人の資質、いい加減さによる問題の可能性もありますが、例えば労働環境の悪さ、激務といったことも、見落としの一因という見方も出来ると思います。

そしてまれにですが、昨今のカスハラのように、患者さんが薬剤師に詰め寄り、急かすようなケースもあり、それでミスが起こったという可能性も、ゼロではないはずです。

処方箋を出してからお薬をもらうまでの時間が長いという問題は昔からありますが、現在では例えば、ラインを使って先に処方箋を送り、薬局での待ち時間を減らすということが可能なところもあります。

そうした場合では、薬剤師や薬局側も急ぐことなく、しっかりとチェックすることが可能と言えます。

また、お薬を渡す際に、薬剤師がもう一度病状や体調を聞くことが多いと思いますが、これも間違ったお薬が出ていないかや、処方箋の人違いを防ぐのに非常に役立つ会話になります。

面倒がらずにお話頂けると、とても安全ですので、是非意識していただければと思います。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属