日本初の人工中絶薬と海外の状況#575

Voicy更新しましたっ!

今回は日本でも現実的を帯びてきた「飲み薬による中絶」について

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「中絶薬」の承認申請が

先日、ネットでかなり話題になったのが「人工中絶薬が承認申請された」と言うニュースです。

イギリスのラインファーマという製薬会社のお薬が申請したというもので、今後承認を受けた場合は日本で初めて、飲み薬で中絶という選択肢が出来ます。

今回はこのことについて、詳しくお伝えしていきたいと思います。

妊娠9週以内の120人で治験が完了

中絶手術というと、日本では掻爬法(そうは法)という手法が主にとられており、細い棒を使って子宮の中からかきだす、というものですが、これはいわゆる普通の飲み薬ですので、薬を飲んで中絶できる、ということになります。

治験は完了しており、妊娠9週以内の120人の方に投与されました。

内訳は全体の93%となる112人は24時間以内に中絶が完了、そして完了しなかった8%は中絶完了までに24時間以上かかったり、一部が胎内に残って結果的に手術をするなどの結果になった、とされています。

副作用はおよそ60%の方、71人に吐き気や嘔吐が見られ、それよりも重い副作用としては1人、発熱や貧血、出血と言った症状がみられたと発表されています。

ちなみに妊娠9週というと、胎児の大きさがおよそ3センチ程度、重さは2グラムから3グラム程です。

1988年にフランスで承認されて以降、80か国で承認、流通しているお薬

今回日本で承認申請がされたこのお薬は、実は30年以上前にフランスで承認されたのを皮切りに、現在では80か国ですでに使われているお薬です。

さらに、WHOは2005年に妥当な価格で使われるべき、必須医薬品の一つに指定しています。

例えば熱を下げるアセトアミノフェンは日本でも安価に、大量に扱われていますが、海外ではこれと同じレベルの扱いで、値段を高くせずに販売することを推奨しています。

さらにWHOは2012年に、日本でメジャーな中絶手術となっている掻爬法は、子宮を傷つける危険があるため辞めるようにと言った結論を発表しています。

実際、ほとんどの国ではすでにこの手術はしておらず、お薬による中絶が主になっています。

新薬は慎重であるに越したことは無い

以上のことから、言ってしまえば日本においての中絶薬の議論は「時代遅れ」と言われていた分野の一つとなります。

しかし、以前から度々触れているように、日本人の体質に合わず、深刻な薬害となる可能性は充分あるため、安易に承認する必要は無いと言えます。

新薬の承認は慎重に、治験や調査を充分にしてからということはもちろん大切ですが、一方でこのお薬は30年以上前からすでに使われている上に、地域も限定的ではなく、80か国というかなり広い範囲で実際に使われているという実績があるのも事実です。

ですので、おそらくは最終的には、承認される可能性が高いと考えられます。

ただ、海外との違いは大きく、例えば使い方の違いという点から、価格の差が大きくなると予想されます。

海外では平均740円程度のお薬が、日本では総額で10万円程度になる可能性が

このお薬は、日本産婦人科医会では10万円ほどが望ましいと発表しています。

しかし、海外では前述のWHOの発表もあったように、出来るだけ安価に販売しており、価格としては平均で740円程度で販売しています。

価格差が極めて大きいですが、これは日本では入院をして医師の管理の元で使う、と言う流れになるためです。

つまりお薬の値段としては同程度でも、使用の際には入院をしてお医者さんによるお薬の管理等をするため、トータルでの費用が10万円ほど、という意味です。

これはあくまでも現時点でのことですので、今後承認を検討する中で、医師の管理がどれほど必要なのか、このお薬を使う場合はどういう処置が適当かを踏まえて考えれば、想定の費用が下がる可能性は充分あります。

また当然、改定というのもあるため、当初は高めの設定でもその後改定されていくこともあり得ます。

最後に、中絶薬が認められるからと言って、安易な妊娠や堕胎ができるということではありませんので、決して間違えないでください。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属