コロナ禍で医薬品不足?医薬品クライシス!#550

Voicy更新しましたっ!

今回は頂いたコメントから、コロナによって不足しているお薬、医薬品事情のお話

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コロナ禍・薬害事件で医薬品に異常事態が

緊急事態宣言、まん延防止等重点措置、どちらも全国的に解除される見通しとなり、しばらく振りに各自治体ごとでの対策に切り替わっていく現在ですが、ついに表面化してきたのが「医薬品不足」の問題です。

コメントで「ヘパリン需要が高まり、増産が追い付かずに一部のヘパリン製剤が供給中止となりました」といったものをいただきました。

ヘパリン製剤の他にも、covid-19によっていくつかのお薬の需要が急激に高まり、生産が追い付いていないということが起き始めています。

また、去年起きた小林化工の薬害事件も一因を担っています。

今回は医薬品不足の問題について、少し触れて行きます。

イベルメクチン不足による実害が

まず、コメントにあったヘパリン製剤ですが、これはECMOや人工呼吸器、点滴の治療の際に用いるため、covid-19による入院患者が急増している現在では極めて不足しやすいお薬になります。

そしてもう一つ、以前配信でも触れた「イベルメクチン」も、ニュース等の影響によって供給不足となっています。

以前触れたように、イベルメクチンはヒゼンダニからなる「疥癬」の治療に使いますが、疥癬は日本ではそこまで頻繁に起こるものではありません。

疥癬は施設内のような、狭い場所で起こると一時的に感染が広がる、ということはありますが、もともと需要が少ないため在庫も少なく、製造量もそれほど多い薬ではないのです。

ですが、疥癬が完全になくなったというわけではありません。

先日ある施設で、疥癬が確認されたもののイベルメクチンの手配に時間がかかり、治療に支障が出た、ということが実際に起きたのです。

県内の薬局はもちろん、お薬の卸などのお店にも連絡をしたものの手配ができず、最終的に県外のお店にも連絡して治療をした、というケースが起きたのです。

そして、こうした事態はこれからも起こり得る可能性は十分あります。

最近アメリカで承認されたのが、「アクテムラ」というリウマチの治療薬です。

イベルメクチンと違い、主に重症者用に使われるお薬で、ヨーロッパや日本でも承認に向けて本格化されており、日本の一部の施設ではすでにcovid-19治療に使っている場所もあるようです。

ただ、これも前述のように、本来はリウマチのためのお薬で、本来必要としているリウマチの患者さんへの供給が滞るという可能性があります。

イベルメクチンもアクテムラも、他に代用できるお薬がほぼ無いため、本来必要とする患者さんのことも充分に考慮する必要があります。

covid-19治療薬以外でも様々な医薬品が不足し始めている

上記はcovid-19治療に関連して需要が高まっているお薬ですが、実は昨年の小林化工の事件の影響により、不足しているお薬もあります。

例えば、ビタミンDを改良したような骨粗しょう症に使うお薬で「エルデカルシトール」というお薬があります。

このお薬は日医工という、ジェネリック医薬品の中でも業界シェアトップのメーカーをはじめとして3社ほど製造していますが、業界トップの日医工がこのお薬の製造を一旦停止しました。

すると、これまで日医工と取引をしていた病院や薬局などたくさんの顧客が、他社が製造するエルデカルシトールへと切り替えたため、在庫が急激に消費されていったのです。

他社は他社の顧客があり、製造も続けているため在庫はあるものの、業界シェアの日医工の顧客分を賄えるほどの量は確保していないため、結果的に現場からエルデカルシトールが消える、供給不足に陥るという事態になったのです。

これはあくまでも一例で、業界最大手のメーカーの製造がストップしたことで、違うメーカーのお薬を使用するということは今年非常に頻繁にあった印象です。

もしかしたらこれをご覧の方でも、今まで飲んでた薬でメーカーが変わったという説明を受けた方もいるかもしれません。

こうしたことは、去年の小林化工の薬害事件がとても大きな一因になっています。

抜き打ち検査と薬価の問題

去年の終わりごろに、かなり大きな薬害事件が起きました。

これは472回で詳しく説明していますが、簡単におさらいすると水虫の飲み薬に睡眠薬が混入してしまったという事件で、平たく言えば「製造工場が製造工程を守っていない」ということが判明したのです。

これを受けて厚労省が、ジェネリック医薬品を製造する各メーカーに抜き打ち検査を実施しました。

すると、小林化工と同様に、定められた製造工程を守っていないというメーカーがいくつも見つかり、各社で製造の見直しを迫られたのです。

このことは、メーカーの単なる手抜きではなく、「薬価の改定」が背景にあると、個人的に思います。

現在、医療費の削減としてお薬の値段が下がり続けている、という背景があります。

2年に1回、国が改定していますが、ここ10年近い近年では、ジェネリック医薬品の値段の下がり方が著しいという特徴があります。

その上、去年から2年に1度だった改定が、毎年の改定になり、単純に製薬会社にとっての利益がどんどん減っていくという事態になったのです。

その結果、あらゆる部分をコストカットしていき、製造工場にも影響が及び、小林化工の事故につながり、ひいては各ジェネリック医薬品メーカーに波及していったのです。

医療費削減のためにできること

言ってしまえば、これは政府、厚労省の行き過ぎた薬の値段改定の結果と言えます。

個人的には医療費削減のためにお薬の値段を下げるというのは、現状が限界と思います。

去年の事故も今年の供給不足も、お薬を安くしようと結果で起きていることです。

元々日本は医療保障が極めて充実している上に、他の国に比べて医療が安価に受けられるという特徴があります。

以前から取り上げていますが、医療を安価に受けられるがゆえに、すぐにお医者さんにかかってしまうという方がとても多いです。

そしてこれも以前触れましたが、昨年はcovid-19によって受診控えが起き、お医者さんにかかる人が減りましたが、病による死亡率はそれほど変わらなかったというデータが出ています。

こうしたことを鑑みると、医療の単価は若干上げても良いとも思います。

ただ、その一方で上がった分の受け皿、ちょっとした体調不良や健康不安を解消できる窓口として、街の薬局や薬剤師を活用できればと思います。

そこに併せて、市販のお薬を使って自分で治していく、ということもできれば、医療費の調整にもつながるのではと感じています。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属