受診控えでむしろ適正?多くの命を救う医療体制とは?#528

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今回は過去最高の黒字となった「協会けんぽ」のニュースから、医療費にまつわるお話

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医療費が減少した昨年度

先日、「協会けんぽ」の2020年度の決算が、6183億円の黒字と、過去最高の数値となったというニュースがありました。

また同時に、そもそもの国全体の税収も過去最高となったと報じられています。

今回はこのニュースに絡めて、医療費について少しお話していきたいと思います。

 

去年起こった「受診控え」

協会けんぽとは、主に中小企業に勤める方とその家族の方が加入する健康保険のことで、人数で言うとおよそ4000万人ほどの方が加入している保険になります。この保険が大きな黒字ということは、支払った保険金が少ないということになります。

つまり、2020年は、医療費自体が全体的に減少した年ということです。

これまでは高齢化の影響もあり、全体で前年比で3%ほどずつ、年々増えており、医療費をどう削減するかは極めて重大な問題でした。

しかし去年は、数字で言うと、全体でおよそ1.8%減少して、10兆1000億円となっています。

最初の協会けんぽの件、税収の件から見ても、医療への出費が全体的に下がったのだと思われます。

理由はいくつか考えられますが、例えば高額なガンの治療が一時的に滞ったとか、それほど急を要さない手術を取りやめる方が増えたというのも一因です。

反対にcovid-19関連で、ecmoのフル稼働や病院のゾーニング、PCR検査などによる出費は以前と比べると増加しましたが、実はこれらはガンの治療や手術よりもそれほど単価は高くないため、全体的な医療費には影響が出ていないのです。

ほかにも例えば、外来の受診が減ったり、同時にこなしていた手術の量が減ることで、採算がとれずに閉業を余儀なくされた病院や薬局が実際にあります。

covid-19の患者さんを受け入れて治療を積極的にしたら、これまでの業務ができなくなり、その分収益が悪くなった、という報道がされていましたが、確かにそういったことが起きていると思われます。

 

保険料収入も減少

そして実は、保険料の収入も、減少に転じています。

去年の、いわゆる「コロナ禍」によって倒産した会社が続出したのはご存じかと思いますが、例えば事業が一旦停止して保険料の支払いの猶予をもらったり、一部を下げて保険料を安価にするなどの対策によって、全体の保険料の収入も落ちているのです。

保険料収入は全体で10兆7000億で、割合で言うとおよそ1%減ったことになりますが、保険料収入が減少するというのは非常に重大な事態で、経済への打撃が深刻だったことが分かります。

 

医療費が減少した結果、適切な医療ができた?

covid-19によって起きた受診控えと、それによる医療費の減少ということは、治療が滞ってしまい必要な医療も適切に供給できなかったのか、と考えられるかもしれません。

ですが、個人的には以前から何度かお伝えしているように、これまでは必要以上に過剰な医療が提供されていたと思います。

つまり、本来であれば病院にかかるまでもないことでお医者さんに診てもらっていたとか、すぐに必要ではない手術も行っていた、と考えられるということです。

そのうえで、手洗いやアルコール消毒、マスクのような感染対策が十分に徹底され、すべてが繋がったことで、医療費の削減という結果で現れたと思われます。

そしてこのことは、年間の死者数が去年はこれまでよりも減っているという点でも表れていると思います。

以前496回でも触れましたが、2020年度の死者数は138万4000人と、前年と比べて9000人減っています。

日本の死者数は、前項の医療費と同じく、高齢化によって年々増加していました。

死因ごとの内訳では、肺炎での死者が前年比1万2000人減で、インフルエンザが2000人減、そのほか心筋梗塞や脳梗塞での死者数も8000人減少となっています。

その一方で、老衰での死者が7000人増えたとされています。

老衰による死者が増えたということは、単純に肺炎などの病名がつかずに、文字通り老衰で亡くなった方も存在すると思います。

ただ、全体としては死者が減っているため、医療が不十分によることで亡くなった方が増えたということは無い、と言えるはずです。

発生した医療費がこれまでよりも低いのに、死亡者数がこれまでよりも増えずに減っているということは、極めて適切に医療が提供されていたと考えられる、ということです。

 

全体が意識を持つことで、医療資源を守っていく

今現在も変わらず、covid-19の脅威はあるため、おそらく全体的に去年とほぼ同様の意識があるかと思います。

そして今後も、去年や今年のような意識を持てれば、医療が全体的に適切に、必要な分にいきわたるはずです。

おそらく去年も現在も、以前まではすぐにお医者さんに診てもらっていたような、軽い風邪や腹痛でも、家で休んだりテレワークをしたり、また自治体の相談窓口を使って相談してみたりといったことをしているはずです。

当然、市販薬を使って自分で治すという方もいると思います。

そのうえで、食事前やトイレ後の手洗い消毒、外出時のマスクのような細かな感染対策も十分されているかと思いますので、こういった行動により、医療費が全体的に低下しながらも、医療がきちんと提供されているということにつながっていると考えられます。

ただし、今後もずっと、半永久的に今と同じような生活が続くかというと、それはありません。

経済活動は以前のように再開され、例えば地域のお祭りが再開したり、酒類の提供が戻って深夜営業の飲食店が増えたり、また海外との往来や海外からの観光客も、やがては以前のような水準になると思います。

今は普通に行っている感染対策も、これからも全て今までのようにしなければならない、ということはありません。

例えば手洗いはきちんとするとか、体調が優れないときはしっかり休んで様子を見る、テレワークが可能であればテレワークをしながら安静にする、場合によっては市販薬を使ってみるといったことは、今後元の生活に戻った時にもぜひ続けていければと思います。

そしてこれもたびたびお伝えしていますが、市販薬で良いのか、病院に行った方がいいのかの判断は、自治体の相談窓口ももちろん良いですが、薬局もとても便利に活用できます。

症状によって、薬局にある薬で対応できるか病院に行くよう勧めるといったことができる上に、一口に市販薬といっても、薬局であればコンビニやスーパーにはないお薬が取り扱えるため、対処の幅が非常に広くなります。

場合によっては、診てもらう科の案内も薬剤師ができることもあります。

様々な方面で、薬局が活用できますので、是非、気軽に利用していただければと思います。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属