麻酔と市販の痛み止めは違うの?#353

Voicy更新しましたっ!

今回は先日の痛み止めのお話に関連する「麻酔」のお話

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「麻酔」というお薬

以前、一般的に市販されている痛み止めについてお話しました。

今回はそれに関連して、「麻酔」というお薬についてご紹介していきます。

麻酔は、凄く平たく言えば「痛みが脳や体に伝わらないようにする薬」となります。

 

痛みは体が出す「防御反応」

まず、人体の持つ「痛み」というものは、防御反応の一つであり、サインとなるものです。痛みを出して、異常のあるところを知らせて、対処していきます。

しかしそれでは、いわゆる外科手術はもちろん、胃カメラ、大腸カメラのような体内に異物が入る治療も、ほぼ出来なくなります。

様々な手術や治療のためには、一時的にその反応をとめて、痛みが伝わらないようにする必要があります。そこで使うのが麻酔です。

以前の消炎鎮痛剤のような痛み止めの薬は、炎症を抑えて痛みを無くすという物ですが、麻酔は炎症を抑える働きはしません。

ちなみに、以前の痛み止めの回で触れなかった、モルヒネなどの医療用麻薬は、痛み止めよりも麻酔に近い働きがあり、実際麻酔として使われていたこともあります。

 

局所麻酔と全身麻酔

麻酔には局所麻酔と全身麻酔があり、どちらもご存知の方も多いと思います。

文字通り体の一部、局所的に痛みが伝わらないようにするのが局所麻酔で、よく歯医者さんで使うことがあると思います。

痛みだけではなく、筋肉を動かす神経、運動に使う神経も伝わらないようにするという特徴があります。

その部分に注射したあと、何となく痺れている気がして、動かなくなると麻酔が効いている表れです。口が閉まっているか自分で分からないので、いつの間にかよだれが垂れている、ということがあるのも麻酔の効果と言えます。

歯医者さん以外では、例えば巻き爪の治療や手足の傷の治療に使うこともあります。

ちなみに局所麻酔は、コカインと言う薬物が使われていたこともあります。

今の局所麻酔薬は、このコカインの改良を重ねていったものですので、特有の副作用や依存性が一切なくなっている、安全な薬です。

ただ、使い方を間違えると危険なのは変わらず、また体質によって変わる問題もあるため、麻酔薬は市販されておらず、必ずお医者さんの元で、治療の時に使われるようになっています。

一方の全身麻酔は、意識が完全になくなって、自分の意志では体が動かせなくなる、という麻酔です。

言い換えると、体を守るための反応が完全に起きなくなる麻酔です。

例えば、手術で体にメスを入れたとしたら、痛みももちろんですが必ず防御反応が出て、筋肉も動きます。

全身麻酔をすることでそういった働きが一切無くなるため、あらゆる治療がスムーズに行えます。

これも大昔は麻薬で代用されていたことがあり、モルヒネやアヘンを使っていた国もあります。

しかし副作用や依存性が大きな問題なため、徐々に安全なものが開発され、無くなっていきました。

全身麻酔は静脈注射もありますが、マスクを使って肺から効かせていくものもあります。

 

詳しい仕組みが未だ分かっていない全身麻酔

ちなみに、マスクで呼吸を使って効かせる全身麻酔は、詳しい仕組みが未だに分かっていません。

使う薬はもちろん、研究を重ねて開発された麻酔薬ですが、なぜ、麻酔の効果が出るのかはあまりわかっていないのです。

仕組みは不明な部分が多いですが、これまで様々なお医者さんが実際に使ってみて、どのようにすれば安全に使えるかが分かっているから使っている、という方法になります。

 

眠っている状態とは少し違う

また、全身麻酔は単に眠っている状態というわけでもありません。

全身麻酔は効きすぎると、呼吸に使う筋肉も動かなくなるため、呼吸も止まります。なので人工呼吸器を使って、呼吸も助けることもあります。

特に長時間の手術で、長い間全身麻酔を使う必要がある、というようなときは人工呼吸器を使うことが多いです。

さらに、全身麻酔を使っているときは非常に無防備で、その本人の防御能力がゼロに近いので、細かな体調変化や副作用が無いか、麻酔科のお医者さんがつきっきりで確認しています。

そして、治療が一通り完了して、麻酔から目が覚めた後、せん妄という副作用が起きることがあります。

いわゆる意識混濁という、起きているようで寝ぼけているような状態で、意味不明な事を言ったり、幻覚、幻聴に襲われることがあります。

一時的なもので時間とともに治るので、気にする必要は無いですが、付き添いなどの家族の方が突然見ると驚くので、一応知っておくと良いと思います。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属