薬を飲みたくない!そんな患者さんへの対処法#648

「薬を飲みたくない」と思った時

以前から、当薬局なくすりーなではメールやラインを活用して、オンラインでの服薬指導や健康相談を受け付けています。

先日、ある方からオンラインで「なるべく薬を飲みたくない」という相談をいただきました。

治療に際してお薬が必要なものの、お薬による辛さなど、様々な事情があって「飲みたくない」という相談を受けることは、実はそれほど珍しくありません。

今回はこの方とのお話をもとに、「お薬を飲む」ということについて、今一度整理していきたいと思います

糖尿病治療の中で

この患者さんのケースは、いわゆる糖尿病の治療についてのお話です。

以前から健康診断の際に、数値が「少し怪しい」という状況にあったものの自覚症状はまだなく、糖尿病という病気とは受け入れられない、お薬を飲みたくない、といった気持ちもあり、放っておきました。

当初は毎年健康診断を受けていたものの、転職を機に会社での定期的な健康診断の機会がなくなり、数値を逐一確認するということがなくなりました。

しかし、糖尿病の傾向があることはしっかりと認識していたものの、糖質を抑えるサプリを使ったり、食事をある程度改善したりといったことをしていました。

そんな中で、軽い怪我がきっかけで救急病院にかかることになり、念のためということで久々に血液検査をすることになり、出たHbA1cの数値を確認したところ、12.4という結果が出ました。

HbA1cは6.2以下が正常値で、単純にその倍の数値になっていたのです。

重度の糖尿病の方でも8程度であることが多いため、12.4という数値が出た時点でお医者さんは緊急入院を強くすすめましたが、元々お薬も入院も嫌だったため、入院もインスリンの治療も一旦は拒否し、どうにか飲み薬だけでも、ということで飲み薬での治療が始まりました。

しばらく経過してお薬の効果が出始め、数値では7台前半まで下がってきたところ、血糖値が下がりすぎることによって震えや空腹といった、低血糖の症状が出ました。

この低血糖の症状が辛くて、これ以上お薬を飲みたくない、という相談なのです。

「自分がこれから先、どうして行きたいか・どうなりたいか」を考える

最初に書いたように、こうした相談はたまにあることで、こうしたときに自分が一番に尋ねるのが「自分自身はどうしていきたいか、そしてどうなりたいか」ということです。

この方のケースだと、お薬を飲みたくないのと同時に、定期的にインスリンの注射をするのは絶対避けたい、とおっしゃっていました。

この方の最初の希望で「できればこれ以上お薬も飲みたくないし、インスリンの注射もしたくない」というのが、これから向かっていきたい方針、となります。

ですので、自分もこの方針に則って服薬指導をしていくことになります。

ただし、そこで次の質問で「どうなりたいか?」を尋ねます。

どうして行きたいかという質問は、本人の希望もあるため割とすぐに出てきますが、「どうなりたいか?」という質問をすると少し考える方が多いです。

この方のケースだと、これからも旅行に行っておいしいものを食べたり、仕事も自分にとっては良い刺激になるからこれからも精力的に続けていきたい、という思いが出てきました。

その一方で、できればお薬を飲まずに、そして好きなものも気にせず食べたいし運動もしたくない、という気持ちもあります。

こうしたことを上手く汲み取り、患者さん本人が無理なく、ストレスなく治療していく道を探るのが、薬剤師が行う「服薬指導」の腕でありスキルになる、と感じます。

この相談を受けて、自分がこの方に対してお話したのは、まず本人の今の立ち位置はどこか、ということを分かってもらうことをしました。

立ち位置とは、その方の現在の糖尿病の状況のことで、まず糖尿病の度合いを測る「HbA1c」はいわば「体温」のようなものと考えてください、とお話ししました。

HbA1cが6台は平熱の36℃程度で、7台は微熱、8台を超えたら40度を超えるような高熱、と言えます。

12.4という数字は、命の危険があるほどの高熱と同じで、脳などにも影響が出るほど危険な熱と言えるはずです。

糖尿病でいえば、足などの末端が壊死したり、失明したりといった、重い合併症を引き起こしかねないほどの数字と言えます。

HbA1cが7台となった今は、平熱ではなくまだ熱が出ている状態となり、そういった重い合併症のリスクは依然として抱えたままになります。

そう考えるとやはり、もう少し熱を下げて、平熱になることが一番安全であり、健康な状態になります。

そのためにはやはり、お薬を使ったり、食生活を変えたり運動の習慣をつける、といった対策をしないと難しい、ということも伝えました。

発熱がない状態、つまりHbA1cが6台になれば、当然お薬は一段と減らせられます。

お薬をきちんと飲むこと・低血糖の症状がどのように起こるかを確認する

ただ、本人としては微熱の今、平熱になるまで頑張ることは難しい、と言われました。

そこで、じゃあ6台になるために今から頑張っていこう、というのではなく、現状維持で、微熱から平熱の間を維持する感じで続けていくようにしましょう、というお話をしました。

現状維持ができれば、糖尿病の重い合併症のリスクは大幅に減り、同時に透析も防げるため、現状維持をすることを目指していくことを確認しました。

そこからさらに具体的にお話を聞いてみると、お薬の飲み忘れがたまにあり、それを無くしてしっかりと飲むようになったら、さらに数値が下がる可能性があるということを伝え、その方の生活リズムに合わせて飲み忘れが無くなるような飲み方も提案しました。

そして、低血糖の症状が出るということも、実際に飲んでいるお薬の種類と起きたシチュエーションを聞いてみたところ、原因と思われるお薬と、低血糖の症状が起きやすいシチュエーションがわかりました。

食事をせずにお薬だけを飲んでしまったことで低血糖になったことがわかったため、低血糖が起きやすい場面やシチュエーションなど、注意点を今一度まとめてお伝えしました。

こうしたことを一連の流れで様々話してみると、割と頑なだった当初の態度も徐々に変わって行き、すごくスッキリと納得された感じで終えられました。

お薬の飲み方一つでも、本当に様々な気付きがありますので、是非、お気軽にご相談いただければと思います。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属