今回は頂いたコメントから、不眠に効く漢方薬のお話です。
若いころから不眠症で悩んでいて、さらに更年期と育児、介護のストレスなどといった要因が重なってかなり重度の不眠状態になったという方から、漢方薬についての質問がありました。
「加味逍遥散(かみしょうようさん)」を半年以上飲んでみたものの改善されず、「加味帰脾湯(かみきひとう)」にしようか考えており、医薬品会社のホームページの体質チェックでは「血虚」となりました。
不眠の3つの種類
不眠については305回で詳しくお話ししてますが、簡単におさらいすると3つの種類があります。
眠りに入るまでが悪い、いわゆる寝つきが悪いタイプ、深い眠りに入るのは早くても途中で起きてしまう、中途覚醒してしまうタイプ、眠れた感じが悪くて朝を迎えても寝た感じがしないタイプ、の3つです。
最初の寝つきが悪いタイプはよくあるもので、ベッドや布団に入っても眠りにつくことができず、ごろごろして数時間ほど経過するようなケースです。
中途覚醒は高齢者に多く、例えばトイレで目が覚めてから寝れずに朝を迎えるとか、なぜか自分が起きたい時間の2時間以上前に目が覚めて眠れなくなる、というようなことです。
最後が実際には眠りにつけているのに、実感としてはあまり寝た気がせず、起きても眠気があるような場合です。
不眠の解消は、いずれの種類でも「生活リズムを整えて副交感神経の働きを上げる」ことに尽きます。
そのためには、やはり朝日を浴びるとか、お風呂に入るといったことが大切です。
朝日を浴びると体内時計がリセットされると言われますが、朝日を浴びてからおよそ12時間から14時間後に眠気が来るようになっているためです。
眠気は体温が下がると出てくるため、お風呂に入って一時的に体温を大きく上げ、それが元に戻り下がっていくタイミングで出る眠気を利用して眠るようにする、という方法です。
自律神経を整える以外で大切なポイント
とはいえ、前回も触れたように自律神経を整えようと思って整えるのは難しい部分もあります。
前項の、3の種類の不眠に対して効果的なポイントとしては、まず寝付けない場合は、早めにベッドに入らないことを意識することと、寝れないと思ったら早めに諦めてベッドから出るようにしてみてください。
眠れないのにベッドや布団に入っていると、体は「その位置では眠れない場所」、と意識づけてしまい、寝ることがどんどん難しくなっていきます。
ですので眠気がきちんと来て、寝る直前ぐらいになるまでベッドに入らないようにするとか、逆にこれは眠れないなと思ったらすぐに起きて違うことをして、意識を切り替えるのがおすすめです。
意識が変わって行くと、ベッドにいる時間=眠ってる時間になり、ベッドにいる時間が徐々に長くなって、眠りにつきやすくなります。
次に中途覚醒するケースは、時計を見ない、手の届くところに時計を置かないようにするという対策があります。
目が覚めて時計を見て起きたい時間の数時間前だと、中途覚醒したことがしっかりと印象付けられ、無意識のうちに時間が気になってしまい、眠れなくなります。
なので、たとえ起きたとしても仕方がないこととして時計を見ず、気にせずにトイレを済ませるなどして再度寝ようとしてください。
時計を見ないでいれば、途中で起きてしまったというショックが無いため気にならなくなり、眠りにつきやすくなります。
中途覚醒でも朝早く起きてしまう方の場合は、昼寝をとっている方に多く、昼寝の時間も込みでトータルでは睡眠時間をとれていると、健康な害やリスクが低い場合も多いです。
夜に眠れないで夕方に睡眠をとってしまうのは、朝早く起きてしまう一因なので、夕方に寝ている分を夜に回すようにすると改善される可能性が高いです。
ただ、年齢を重ねると朝早く起きてしまうというか、睡眠時間が短くなる傾向にあります。
ですので「年のせいだ」と少し開き直る感じで気にせず寝るのも一つです。
最後にしっかりと寝た気がしないタイプ、熟眠感が足りないタイプの方は、睡眠へのこだわりが強いことが多いです。
例えば、1日何時間はしっかりと寝ていないと絶対ダメなど、何かしらの強いこだわりがあることが多いので、一旦それを気にしないでいてみてください。
時間を気にするのは睡眠にとって悪影響で、寝付くまでの時間やしっかりと寝ている時間などは気にせずに、リラックスするようにしましょう。
ちなみに睡眠には疲労物質も大切になるため、運動はかなり重要です。
家の中でできる軽いストレッチ程度でも大丈夫なので、眠りにつく1時間から2時間前ぐらいに少し体を動かしてみると、意外に寝れるようになるのでおすすめです。
睡眠に効く漢方薬
最後に今回のタイトルにもある睡眠に効く漢方薬についてですが、睡眠に効く漢方薬は厳密に言うとあまりありません。
それよりも、何かしらの症状があって、眠れない症状も出ている、という場合に効く漢方が非常に多岐に渡って存在します。
ですので今回はそうしたものの一部を、かいつまんでご紹介していきます。
寝付けない、寝つきが悪い方に対してですが、まず普段は元気があって、夜にイライラする感じなど精神的に不調があって眠れない場合は「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」、「女神散(にょしんさん)」が合います。
逆に普段から元気がなく、夜に不安になったり考え事をして目が覚めてしまって眠れない、というような場合は「抑肝散(よくかんさん)」、「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」がおすすめです。
次に中途覚醒する方や熟眠感が少ない方には、コメントにもあった「加味逍遥散(かみしょうようさん)」が良く使われます。
そして、精神的な不調の中でも、例えば親しい人を亡くすとか、大きな事故や災害、失業など、精神的な多大なストレスを受けたことで、眠るのが難しいという方には、まず活動はある程度でき、元気がある場合では「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」や「大柴胡湯(だいさいことう)」を使います。
逆にストレスを負った直後など、食欲もなく元気もほとんど出ずに深く落ち込んでいる場合は、「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」、「柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)がといったものを使います。
次に食欲が無く、貧血の症状があって、情緒も不安定な感じでさらに不眠の症状も出ている、という場合には「加味帰脾湯(かみしょうようさん)」が効果的です。
コメントにあった、更年期症状についてですが、更年期の症状がメインで重く出ており、その次に不眠があるような場合には、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」や「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」といったものを使っていくこともあります。
睡眠を改善する漢方薬は特に様々あり、症状ごとに非常に多岐に渡るため、興味があれば是非詳しい薬剤師やお医者さんに相談してみてください。