吉田 聡 認知症の新薬が正式に認可
先日、日本の製薬会社のエーザイと、アメリカのバイオジェンという製薬会社が共同開発した認知症のお薬、レカネマブが正式に認可を受け、早ければ年内にも日本で流通することが決まりました。
今回はこのニュースから、認知症について詳しく取り上げていきたいと思います。
認知症と物忘れの違い
まずそもそも、人間の記憶力は加齢とともに衰えていくものです。
大体20代ぐらいに記憶力のピークを迎え、それ以降は記憶力の機能が低下していき、60歳を超えるあたりで判断力なども落ちてきて、いわゆる物忘れが増えたり、運動機能が衰えるのに併せて車の運転が難しくなったりといったことが起きてきます。
物忘れとは、体験の一部を忘れるということですが、認知症は体験の一つを全て忘れてしまう、抜け落ちてしまう状態になります。
具体的に言うと、朝食を食べた記憶はあるけど具体的に何を食べたのかは思い出せないとか、何かしらのヒントをくれたらすぐに思い出せるのが物忘れです。
認知症は満腹感なども含めて体験したこと全てを忘れるため、一昔前に漫画やコントで出てきたような、飯はまだか、おじいちゃんさっき食べたでしょ、というようなやり取りは、認知症が起きていることを示すやり取りなのです。
この状態では、どんなヒントを出しても本人にとっては、ご飯を食べたことにはなっていないため、思い出すことは全くできません。
ヒントをもらえばすぐに思い出せるのに、少し物忘れが多いだけで、もう認知症かもしれないと不安になる人が度々いますが、認知症はこのように完全に忘れてしまうため、自分で自覚するということはまず不可能な病です。
認知症の種類
認知症の仕組みをもう少し具体的に言うと、これは脳の神経の働きが低下しているために起きていることです。
2012年のデータですが、65歳以上の方では7人に一人が認知症で、その前の軽度認知障害と思われる方は4人に一人とされています。
軽度認知障害があるからと言って、必ず重症化して認知症になるということはありませんが、認知症は軽度認知障害が無くても、誰でも起こり得る病という特徴もあります。
認知症にはいくつか種類があり、まず代表的なのが全体の65％を占めるアルツハイマー型認知症で、次に多いのが脳梗塞のような病で脳の血管が詰まり、一部の脳細胞の機能が失われるような状態によって起こる認知症を血管性認知症と言います。
血管性認知症は脳の機能と同時に、手足など体の一部が麻痺するような、運動機能にも影響を与えるという特徴があります。
その次に多いのがレビー小体型認知症で、そこにいるはずのない虫やものが見える、幻視の症状が出たり、麻痺ほどではなくても徐々に歩くのが難しくなるとか、なぜかつまづいてしまうという症状が多いという特徴があります。
最後に、非常にややこしく症状が分かりづらいタイプの認知症が、前頭側頭型認知症というものです。
これは患者さんの性格、人格に影響が出るという認知症で、例えば温厚で真面目な性格だったのが、自制が効かなくなって癇癪を起こすようになって、事件を起こしたりといったことが起こります。
性格に影響が出るため、言動が変わって周囲の人を傷つかせたり困惑させたりといったことも当然起こります。
このように脳で起こる病ですので、物忘れだけではなく、幻視や幻聴の症状や運動機能への影響、性格への影響が出ることもあるのが認知症です。
そして今回、認知症について取り上げるきっかけとなった、認知症の新薬ですが、これは最も割合が多いアルツハイマー型認知症に効くお薬となります。
2023年6月にアメリカで承認を受けたお薬
これはあくまでもアルツハイマー型認知症のためのお薬で、それ以外の種類の認知症には効かないという特徴があります。
仕組みとしては、従来の認知症用のお薬だと、脳の神経細胞の伝達力を高める、という方法で症状の進行を遅らせていました。
認知症とは、非常にざっくり言うと脳が徐々に委縮していくようなもので、いわば働ける脳細胞が徐々に少なくなっていくという状況でした。
そこで、お薬を使って伝達力を高め、まだ生きている脳細胞の働きを底上げして、脳の機能の働きが弱くなるスピードを遅らせることで、症状を和らげていくというのが従来のお薬です。
今回承認されたお薬は、脳細胞を減らす原因物質そのものに作用して、それを取り除くということができるお薬です。
アルツハイマー型認知症の原因物質に対して、直接踏み込むという意味で、世界初のお薬と言われているのです。
数字で言うと、認知機能の低下、認知症の発症率を22％遅らせることに成功したとされています。
逆に言えば、認知症がすでに進んでいるところから回復することは出来ないため、脳を蘇らせるようなことは、このお薬でもできません。
しかし、前述した軽度認知障害のような場合では非常に優れた効果が期待できるお薬になっています。
ただその分、薬価としても著しく高く、現在アメリカでの希望小売価格は日本円で616万円となっており、日本でどれぐらいの値段で販売、流通されるかは正直見通しが立っておらず、費用対効果を考えるとかなり難しいとは思います。
効果が高いことは分かりますが、ここまで値段が張るお薬になると、かなり使いにくいと言えます。
特に認知症から回復することは出来ないため、あくまでも軽度の予防的な意味で使うことがメインになると考えると、自由診療で経済的に余裕のある人が、予防として使うという程度の使い方が現実的なのかなとも思えます。