ビタミンCでも歯は溶ける?酸蝕症の話#701

酸で歯が溶ける?

前回、当番組医療・健康ナビ「なくすりーな」は配信700回を迎えました。

生配信ライブということで、配信中に来たコメントにリアルタイムで回答していくという内容でしたが、その中で「ビタミンCを水筒に入れて溶かして飲んでいるが、歯が溶けてしまうのでは」、と言ったものをいただきました。

ビタミンCは酸性の成分で、確かに摂りすぎると歯が溶ける可能性はありますが、様々な飲料に含まれているため、量を気を付ければまず問題はありません。

ただし、「酸蝕症(さんしょくしょう)「酸蝕歯(さんしょくし)」と言う、酸によって歯が溶けるという病は実際に存在しており、それはビタミンCでも起こり得ることです。

今回は前回のコメントに補足する形で、この酸蝕症についてまとめていきたいと思います。

口の中は中性

よく、酸性やアルカリ性と分けられていると思いますが、人間の口の中は「中性」に保たれています。

中性から酸性に傾いてしまったら、phで言うと7だったところから5.5ぐらいまで下がると、歯の表面のエナメル質が溶けていきます。

エナメル質が溶けると、エナメル質の内側にある象牙質と言う部分が表に出て、むき出しになります。

象牙質はエナメル質よりも柔らかいため、その状態で飲食や歯磨きをすると象牙質がすり減ります。

するとさらに、歯の中に食べ物などが入りやすくなるため、冷たいものが一気にしみる知覚過敏になったり、虫歯があればそれがさらに進行したりと言った症状になって現れます。

また、歯そのものにひびが入りやすくなるとか、欠けやすくなって、強度が落ちることにも繋がり、例えば奥歯でそうなると通常以上に溝が深くなったりへこんだりと言ったことも起きます。

これが「酸蝕歯」となります。

酸蝕症は現代の日本人では4人に一人がなっているとも言われているほど、歯のトラブルの中ではポピュラーなものになっています。

炭酸飲料で酸蝕歯になる可能性はある

ですので、食べ物や飲み物で酸蝕歯になる可能性は充分あり、特に長時間触れていると歯が溶けていくのは確実です。

一昔前、コーラを飲むと歯が溶けるというような言い草があったと思いますが、コーラはphで言うと2.2と、酸っぱさで言うとレモン汁と同じぐらいの酸になります。

他にはワインやスポーツドリンクも酸性度が高く、3.4から3.5と強めのほうになります。

今回のきっかけとなった、ビタミンCをお水に溶かしたものですが、ビタミンCの粉末1gを1ℓのお水に溶かした場合では、3.4から3.5ぐらいとなります。

これは当然、1ℓあたりの粉末量を増やせばphは上がって酸性度は高くなり、減らせば薄くなっていきます。

次に食べ物で言うと、果物は3から4ほど、野菜では4から6ほどと、やはりどちらかと言うと野菜の方が酸性度が薄く、アルカリ寄りなのは確かです。

他にはお肉や魚、お茶や紅茶もどちらかと言うと中性で、それぞれ5から6、5.5ほどと人間の口に入れても歯が溶けにくい方の食品となります。

米やパンと言ったものは5から7、チーズは6から7と、かなりアルカリ性に寄っています。

酸に傾いても中性に戻っていく

酸で歯が溶けると聞くと、酸性のものを控えたくなりそうですが、口の中は唾液によって中性に戻る上に、再石灰化という働きによって、エナメル質は基本的には再度元に戻っていきます。

酸性に傾いたとしても唾液が分泌されることで、およそ30分から40分ほどかけて中性に戻っていきます。

ですので、酸性のものをむやみに控えるとか、できるだけ食べない方が良いという事は全くありません。

ただ、早く元に戻るのは歯の健康に良いですので、酸性のものを飲食した後は口をゆすいでリセットするのはもちろん効果的です。

ちなみに歯磨きは、酸性のものを食べてすぐにするのは辞めた方が良いです。

酸性のものを食べた直後は、エナメル質が溶けている最中とも言えますので、その状態で歯磨きするとより大きなダメージとなります。

ですのでご飯を食べた直後の歯磨きは意外と良くないことが多いため、口をゆすぐだけにするか、どうしても磨きたい場合は口の中をしっかりと水でゆすいでから、軽く磨くようにするのが良いかと思います。

口の中を長時間酸性にしないこと

最も歯がすり減りやすい、酸蝕歯になりやすいのが、長時間酸性の食べ物や飲み物を飲んでいるような状態です。

唾液が出るタイミングが無く、口の中が長時間酸性になり、ずっと溶けていくことになるため、だらだら食べたり飲んだりというのは歯には非常に悪影響になります。

ですので同じ量を食べるとしても決して、だらだらと食べずに、口の中の環境を考慮してメリハリをつけるようにするのがベストです。

あともう一つ、寝る前の酸性の食べ物や飲み物も控えてください。

寝ているときは唾液の分泌が大幅に無くなるため、口の中が酸性の状態のまま寝るという事は、酸性のまま数時間もの間過ごすことになり、エナメル質がどんどん溶けて行きます。

ですので寝る前に何かを飲む場合は、お水やお茶のような中性の飲み物を飲むようにするのがおすすめです。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属