covid-19の検査は全員に何でしないの?#396

Voicy更新しましたっ!

今回は薬局に寄せられた質問から、新型コロナウイルス「covid-19」の検査事情について

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希望者全員に検査ができない理由

先日、患者さんから「何故コロナウィルスは全員に検査をしないの?」との質問がありました。

出来るだけ早めに、たくさんの人に検査を、と思われがちですが、なかなかそうは行かない事情がいくつか考えられます。

今でも各地で広がりを見せる新型コロナウイルス「covid-19」の検査の現状について、現時点での情報を踏まえてお話していきたいと思います。

 

検査能力が圧倒的に不足している

まず第一に、検査能力、検査体制が、現状でも確立されていない、というのが挙げられます。

現在、1日に検査できる総数は最大で3000件程度となっていますが、実際には各地域にある保健所を一旦通す必要があるため、実際は3000件検査できていません。

これは最近の国会でも充分議題になっている部分で、俗に言うお役所仕事ではないか、と追及されています。

保健所の審査が厳しすぎるとか、別の問題があっても対応できるように余裕を持ちたがるとか、様々言われていますが、保健所で制限がかかっている事はまず一つあります。

例えば韓国の例だと、現時点で4万人検査をしており、1日で最大1万2000人ほどの検査体制を持っています。

これは韓国では以前のMARSウイルスの時に、死者を38人出してしまったという経験があり、有事に備えて感染症対策を入念に整えていた歴史があるためです。

 

予算の問題

そして次がやはり「お金の問題」です。

現在、検査費用は10割全てを、公費から負担しています。

今後は医療保険の適用がされ、医療保険からと公費とで国が負担する方針になっていますが、もし、感染しているか心配と言う人全員に検査をしたら完全に医療破綻で、どれだけお金があっても足りない、という事になります。

つい先日、迅速検査キットが日本でも開発されたようですので、もう少ししたら、今よりもある程度素早く、検査が出来る体制ができるかもしれません。

希望者にも検査が行き届かないのは、検査体制やお金の問題が主となります。

ですが、原点に戻って考えて見て欲しいのが、そもそも「全員に検査をする必要があるのか」という点です。

今回のお話のテーマとなる「検査」には、精度という問題が必ずついて回るためです。

 

陰性・陽性が、100%の精度で出る検査ではない

連日、感染者が増えているとか、どこで何人検査したか、と言ったことが報道されていますが、このcovid-19だけではなく、実は感染症の検査には「偽陽性(ぎようせい)」「偽陰性(ぎいんせい)」の問題が必ず発生します。

それぞれ、感染していないのに陽性と出るパターンと、感染しているのに陰性と出るパターン、となります。

これはもし、精度が95%の検査だとして、1万人に検査をしたとしたら500人は間違える計算になります。

偽陽性・偽陰性を防ぐために必要なのが、症状が出てから検査を受ける、という事です。

これは、日本で充分に確立されているインフルエンザ検査でも同じです。

インフルエンザは12時間ぐらい発熱が続いてから検査をしないと正しい結果は出ないとしていますが、この検査感度は大体70%で、3割は偽陰性が出るとされています。

この問題は、この2月に非常に大きな話題となったクルーズ船でも見られることで、降りる時の検査では陰性でも、何日か経って症状が出てきて検査をしたら陽性だったことがあったと思います。

なので、症状が出ている方、発熱がしばらく続いている方とか気管支の症状が長引いている方だけ、という風に、しっかりと的を絞って検査をすることで、精度を高めていくのです。

さらに言ってしまえば、このcovid-19には、陽性としても取るべき対策が無い、という問題もあります。

 

現時点でも特効薬が無い

以前もお伝えしましたが、このcovid-19は新型のウイルスですので、効果のある薬は存在しません。

HIVのお薬やインフルエンザ用のお薬が効く、というニュースは度々ありますが、こちらも以前触れたように、確実にこれが効くというお薬はありません。

どうするかと言うと、重症化している場合は点滴などで栄養管理を、人工呼吸器で呼吸の管理をして安静にすることで、軽症の人は家でゆっくり安静にして、栄養と睡眠を取るほかありません。

わざわざ軽症の人を検査で見つけても、打つ手がほぼ無いので、検査の意味があまり無いということです。

 

検査を多数に行う方が、リスクが高い可能性が

多数に検査を行うことで考えられる、もう一つリスクが「病院での感染」です。

voicyでも何度もお伝えしているように、また最近ではニュースでもたまに言われるようになりましたが、むやみに病院に行く方が、感染するリスクがある、ということです。

今回のcovid-19で言うと、発生源の武漢で最も急速にcovid-19の感染者が広まったのは、海鮮市場ではなく、市内の「病院」なのです。

これはすでに論文化されているほどで、感染者を受け入れたことで健康な医療スタッフや、他の患者さんに一気に広まってしまったという事です。

インフルエンザの回や風邪の回でも触れたように、むやみに病院に行くと逆にもらってしまうことが、このcovid-19でも確実に起こり得ます。

また、covid-19は持病を持っている方が重症化しやすいという特徴があるため、軽症で病院に行くことで、持病を持って通院中の患者さんにうつしてしまうリスクも存在します。

もし、持病のある患者さんにうつして重症化してしまうと、また一つベッドや人工呼吸器と言ったリソースを割くことになり、こうしたことが増えると結果として医療崩壊につながります。

先日もお伝えしましたが、今一番大切なのはパンデミックを起こさずに医療をパンクさせない、医療崩壊を起こさないようにすることが一番です。

検査する人を絞ったり、むやみにお医者さんにかからないように、と通達を出したりして、医療資源を急激に消費しないようにしている、となるのです。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属